118話:田中所長交代の話2

 数日後、田中所長は工場への左遷を断って退職するとの情報が入った。

 その夜、田中所長とスナックすずらんへ行き二人で話をした。
 北島が田中所長に、会社やめて、どうするんですかと切り出した。
 いやね女房とも話したんだが子供も高校生で来年は大学進学であり、
これから地方への転勤は無理と言う結論になり、仕事の方は女房の実家の
本家が秋田で味噌と醤油をつくっていて、その販売店を東京に出したいと言うので、その営業をやる事にしたと言った。
 多分食ってはいけると思うがねと、以外に、さばさばとした口調で
明るく答えていた。

 会社って非情だよ、成績が良い時は、おだてられ、業績が下がり
始めたら、お荷物あつかい、ひどいもんだよ。
 北島君も気をつけてやれよ、無理して身体を壊すなよと言ってくれた。
 
 北島も田中所長には及ばないが、いろんな苦労を重ねたので田中所長の
言葉がズシンと心に答えて我慢できずに涙がこぼれた。

 すると田中所長が北島君も本当に苦労したんだね。
 苦労を知らない者には、この意味が、わからないはずで涙なんて
絶対に流すはずもないからなと、しみじみと言ってくれた。
 おもわず田中所長の手をぎゅっと握ってわかり合える男同士の感動を
共有した気がした。

 そして最後に、つまらんものだがといって奥さんの秋田の実家の
味噌を渡してくれた。
味噌汁にして味わって、うまかったら、また買ってくれよ。

 そして北島君の営業センスの良い所で、宣伝してよと笑いながら
晴れ晴れとした顔で言った。

 北島は田中所長は仕事の何たるかをよく知っており
本当は心の広い優しい人なんだと感じた。
 北島は心の中で短い間だったけど、本当にいい人に出会って、
良かったと実感した。

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