71話:長岡の友人が遊びにきた3

 本当にありがとうねといった。こんな楽しい一日は生まれて
初めてといった後、大きな声で泣き始めた。
 北島は困って人目も気にせず彼女を、ぎゅっと抱きしめた。
 北島のスーツの腕が栄子の涙で濡れているのがわかった。
 早足で車に乗り豊野駅に向かって走り出した。
 

 車中では栄子は最近、嫌なことばかり起こって、
ふてくされていたと言った。
 これで何とか明日から立ち直って生きていけるわと喜んで
満面の笑みを見せてくれた。もー来ないから安心してと言った。
 でも北島さんが転勤する時に、

またお別れに来ようかなと、
いたずらっぽく笑った。
 突然指切りしてと言うので北島は、指切りをした。
 その時が来たら絶対に、お別れするからと、また泣いた。
 一時間位で豊野駅に近くなり、お昼も近くなったので近くの
そば屋に車を止めて昼食をとる事にした。
 栄子が、ここのそば硬いねと言った。
 店の人が、うちの店は富倉そば、なんだよと言った。

 富倉蕎麦は山牛蒡の繊維をつなぎに使った色の濃い蕎麦で、
それで硬く感じるんだよと教えてくれた。
でも富倉蕎麦旨いだろうと言った。
 北島が信州に旨いものなしと言うが、そんな事はないんだよと言い、
実は地区ごとに、いっぱいあるんだ。
 ただ信州の人は商売上手じゃないから全国には、
知られてないんだと言った。
 地元の人は格好をつけて宣伝しなくても黙って食えば、
わかるんだよと思うのか、派手に宣伝しないのさ、と言った。
 いよいよ別れの時がきた。栄子が別れがつらいから見送らなくて良いよ
と言ったが、そう言う訳にはいかないとはねのけた。
 列車が見えて栄子が乗り込んだ窓を開けて大きく大きく、
ちぎれんばかりに手をふった。
 また、やはり大粒の涙があふれていた。
 その光景を見ていると思わず北島の目にも涙が浮かび、
あふれ出すではないか。
 もう恥ずかしさんなんか忘れ列車の姿が見えなくなるまで
手を振って見送った。
未だに雪をかぶった北信五岳
(飯縄山、戸隠山、黒姫山、妙高山、斑尾山)
が、この二人の別れをじっと見届けてくれたのかもしれない。

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