第5話、雪女が山から下りてきたの巻

雪女が山から下りてきたの巻

短い夏が過ぎ、秋風が吹き、やがて、11月になると、
時雨れてきた、新潟内陸の峠道は、雪が積もりはじめる。
そのため、スタッドレス・タイヤで、出かける日も多くなった。

いつものように、長岡、小千谷、十日町とまわり、
近くのスナックで、飲みながら、夕食をとった。
 定宿のホテルに、帰り、シャワーをあびて、寝ようとしたとき、
「トン・トン」と、ドアをノックする音が聞こえた。
彼は、落ち着いた声で、こんな時間に、誰ですか? 
すると、女の声で、私よ私。「誰!」と言うと、とにかく、
寒いからあけてと。
ドアの小窓から、のぞいて見ると、北島は、目を疑った。
スナックの、あの女である。ドアをあけて、中に入れてよ。
何だよ、藪から棒に、小声だが、ちょっと怒った声で言った。

なーにね、あんたが、店に来てから、気になってしょうがなかったんだよ。
だから、あんたの定宿を調べて、来たって訳さ。 
早くドアを、あけなさい、といった。
その勢いに負けて、部屋に入れて、さっと、ドアを閉めた。
だから、何の、用だよ。女は、何、野暮なこと、言ってるんだよと! 
今、亭主が出稼ぎにいって、ひとりぼっちで、寂しいんだよ。
だからさ、こんな夜は、むしょうに、切なくて、寂しいだ。
北島は、なんて答えたら良いか、迷って、ぼー、としていた。

そんなことには、お構いなく、女は、北島の胸に飛び込んできた。
酒と化粧の臭いが、鼻をついた。太い腕と、柔らかくて豊満な胸が、
飛び込んできたのである。
自分の意志とは関係ないところで、私の身体が、
勝手に、うごめきだした。
このところ、こんな経験は久しくなかった。
その後のことは、ご想像の通り、楽しんで、時間が過ぎていった。
女にとって、愛し合うのが、久しぶりなのか、非常に積極的であった。

また、来るからね。また、楽しもーと、あっけらかんと、言い放った。
シャワー浴びさせてと言い、そそくさと、帰って行った。
とんだ、雪女の出現だ!、喜ぶべきか、怖がるべきか・・。


数日後、新潟に戻って、久々に、スナックあゆみに、顔を出した。
あら、久しぶり、ママの声、ヒトミも、今晩は!と声をかけた。
今日は1人なの・・、久しぶりにママの顔を見たくてねと。
北島は、ニヤッと笑った。飲み始めて、
ママは、彼の顔を見て、何かあったんでしょ!、違う? 
鋭いな、ママは!、大きな声では、言えないけどね。ちょっとねと。
いたずらっ子みたいな、笑顔でかえした。そして、隅の方の席へ移動した。
ママ、俺のこと、所長に、女難の相があるって、言ったんだって。
嫌だ、もうしゃべったの、口の軽い人ね。

実は、ママ、数日前に、雪女が出たんだよと、笑いながら、話した。
えー、雪女!  あー怖い。どこでの話、聞かせて、聞かせて・・。
先日のホテルのでの出来事を話すと、ママは、
腹を抱えて、笑う笑う・・。
良い思いしたんだね。それも、タダで・・。
笑い転げる状態で、涙を流しながら、大笑いしてた。
ママが、ひきつる声で、それで、相談て、何なのよ? 
彼が、新潟では、こんな話、前に聞いたことにある? 
まだ、笑いが収まらない、ママが、ウソ! 
そんなこと、聞いたことないよ。また、大笑いした。
みんなに見られるのが、嫌だから、そんなに、大笑いするなよ。
だって、あんた、突拍子もない面白いことを言うからよ。



北島は、ちょっと、姿勢を正して、どうしたら良いかな? 
ママが、また、笑いながら、あなたは、どうしたいのよ。
続けて、その女が、良かったら、続けたら良いし、どうしても嫌なら、
他の町にホテルをとって、会わないようにしたらいいよと。
北島は、けげんそうに、どうしたら良いか、
わかんないから、相談しに来たんだよ。
 ママが、わかった、真面目に、話を聞こうと、座り直した。


昔はね、冬場、山間地の農家で稼げないから、
男は、出稼ぎに行ったもんだ。
今でも、貧乏な農家は、奥さんが、小料理屋や、スナックで働き、
旦那は、都会へ出稼ぎというケースはあるようだね。
ただ、大家族が多く、不倫みたいなことは、あまり聞かないよ。
多分、これは、想像だけれど、その女は、子どもがいなくて、
ご両親と同居してない、珍しいケースなんじゃないかな。
いい女だったら、上手くやんなよ。ただし、あなたの奥さんが、
知ったら大変なことになるよ。それを覚悟なら、楽しみな。
ただ、夜の逢瀬だけにして、決して、町中で仲良くしちゃ駄目だよ。
田舎の町では、噂が命取りになるんだよ。ばれたら、
その町に、いられられなくなるんだよ。
そこんところを、十分に注意しなよ。彼は、わかったと小さく頷いた。

この話は、絶対に、他言しないでよ。わかったよ、
この商売やって長いんだよ。そんなの十分、承知だよと。
かれは、ため息をついて、店を出た。
北島は、胸のつかえが取れ、ほっとした。
 それからは、毎回、注意しながら、その雪女との逢瀬を楽しんだ。

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