第16話:お世話になった工場の倒産事件
親しくしている鋳物工場に、納品した品物を、
倒産直前に全て、回収する話。
新製品開発の最終段階で実際に鋳物を使った新製品の
性能試験は、長いつきあいの北関東の鋳物工場で行っていた。
当時、鋳物産業は斜陽化の一途をたどり、儲けが少なく、
どこの会社でも、不景気な話ばかりであった。
数年前のオイルショックが、未だに尾を引いてるのであった。
この日も、いつも通り、新製品の性能試験に行く日であった。
その直前に本社からの電話が入った、
その会社が明日、倒産するという、情報が、入ったのであった。
そこで納入した製品を全部、持ち帰ってこいとの指令であった。
そこで工場長と対策を考えて、私が発送部の大型トラックに
分乗して、その工場へ行き、不良品を間違って納品したので、
回収するという名目で、在庫品を全部回収する事になった。
仕方なく私を含め三人で、出かける事になった。
二時間後、その工場に着き、相手の工場長に、不良品を
納品してしまって申し訳ないと、謝った。
そして不完全な在庫品を交換するので、いったん引き上げ、
正規品を明日に、持ってくると言う事で了解してもらった。
昼になり、工場の食堂で、その工場の仲の良い人と、
いつもの様に、明るく話しながら昼食をとる事となった。
仲の良い連中と、顔をあわせるのが辛くて、
うつむき加減で昼食を食べていた。
すると知り合いの、その工場の技術屋さんが、おまえの会社、不良品を
納品したんだって信じられないよと言ったのである。
そんな事していたら、ライバルに市場をとられるぞ、
しっかりしろよと、笑いながら言われた。
彼とは、特に親しくしていたので食べたものが
喉を通らない程、辛かった。
生まれつき、嘘と人参は、大嫌いな自分としては、
まさに、断腸の思いであった。
こんな不条理な事って、あるのか、みんなに、
本当の事を言いたい衝動に、駆られるのであっった。
三十分位で食べて、さっさと、我が社の製品を、
大型トラックに、二時間かけて、全て載せて出発したのであった。
途中で工場長に、報告をする事になっていたのだが、
どうしても話す気になれず、車に酔って吐いているから、
電話できないという事で、運転手の人に
代わって、電話してもらった。
帰り道では、みんな、無言で暗い顔をしていたのであった。
明日は、我が身という感じが、してならなかったのであろう。
帰って、翌日を迎えて、やはり、その会社は事前の情報通り、
倒産した。
その日は、納品業者、銀行、債権者達が、やって来たそうだ。
そして、商品の回収の為のトラックが列をなしていたそうである。
実に哀れなものである、働いている者には、何も落ち度がないのに、
働き口がなくなるのである。
つまり、路頭に迷うことになる。
こういう事が、北関東、川口の下請け、中小企業には、
多かったのであった。
我が社が、その情報を、いち早く知った理由を、探ってみると、
その倒産した会社と、我が社は、同じ、大手銀行と
取引している事が判明したのである。
つまり我が社まで、その会社の為に、連鎖倒産しては、
困るので、そっと前もって、負債をかぶらない様に、
教えてくれたのが、真相の様であった。
銀行って、裏の顔は、きったねー、単なる、高利貸しと、
同じじゃないかと、心の中でつぶやく、北島であった。
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