第十話:高専も専門課程へ
高専も四年になり専門課程に入った。
私の入った研究室は物理化学研究室であった。
その理由は二つある。
まず、その一は実験があまり好きでない事。
それに化学溶液には、臭いものが多く、
くさい臭いが嫌いで、すぐ頭が痛くなるのである。
もう一つは、、不器用で溶液の混合する際の
微調整が苦手という弱点があった。
以上の事から、有機化学系、高分子化学が、
対象から外れる事になる。
数学は大好きで計算したり方程式を解くのが、
好きであった。また理屈をこねるが好きであった。
これらの理由で、物理化学を専攻することになった。
研究室では、担当の先生が、触媒、吸着を研究していた。
その研究室の担当の先生が、ユニークであった。
男と女の間には、ベクトルがあって、その方向性と、
その力によって、その二人が結婚するかどうかが、
決まるというのである。
最初、みんなは馬鹿にして、相手にしていなかったが、
先生は、真面目な顔で、それを証明してみせると、
意気込んでいたのである。
先生によると、男女が見つめあう時、そのベクトル
(大きさだけでなく向きも持った量の事)
を測る装置を、真剣に作ろうと、考えていたのであった。
ただ、そのベクトルの力が、小さすぎるので、
理論的な話ばかりで、測定装置を設計するところまでは、
進まなかった。
四年になり中間、期末テストの範囲が、専門分野に、
絞られて、好きで入った、化学科という事も、あって、
専門分野の学力が、かなりついてきた。
三年まで化学科の中でライバルがいて、一般教科では、
年平均点で、いつも二位で悔しい思いをしていた。
四年になって、逆転したのである。
念願のクラストップである。
最後は主席で卒業する事ができた。
しかし研究室全体では、各研究室の中でビリか、
その一つ上であった。
と言うのは化学において、有機化学系、高分子化学が、
当時、花形であり、物理化学は、理学に近く、
即実践に、使える工学系とは、言いにくい、
分野であったのである。
その為、あまり目的を、持たずに、ただ何となく、
入ってくる者が、多かったのであった。
そう言う訳で、他のメンバーが平均点を、おもっきり、
下げてくれるのであった。
卒業式の後、各科の総代(トップ卒業者)が、
学校の関係会社の機械、電気、化学会社の会長や社長
(日本最大の企業グループ)と面会して、
今後、社会に出ての抱負を話す事になっていた。
私は、世界で一番の工業国家、
日本の化学の分野で、一翼を担いたいとか、
日本の未来の為に、貢献したいとか、
歯の浮く様な、事を、言ったたものだと、
今考えると、非常に恥ずかしい気がしてならない。
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