第三十四話:馬が合う先生の壮絶死2
テニスで仲の良い木下先生が、北島に、そっと、
松下医局長には会うなと言うので、相当具合が悪い事を察した。
そして半年後、その学会は横浜で開催され大成功に終わった。
終了の翌週、松下医局長が突然、昏睡となり二日後、帰らぬ人となった。
後で聞いた話によると松下医局長は、うすうす、自分が癌に、
おかされているのを知っていた様だった。
医局全体で先生のカルテを全部すり替えて、わからない様にしていた。
面会謝絶後も、ひと目を盗んでは、松下医局長の病室をこっそりと
たずねていた。最初は、冗談を言っていたのが、体調が悪い時は、
悪いが、そっとして、おいてくれと、言うようになった。
そのうちに、寝ている日が多くなり、やつれて、激やせしているのが
目につく様になりはじめた。
元々、大柄でがっちりした体型なので、その変貌ぶりは驚くほどだった。
生前の松下医局長の人柄がしのぶ、参列者が多く、葬儀は、
盛大に執り行われた
もちろん葬儀には、北島は、参列させてもらった。
葬儀委員長の岩下教授が、学会での医局長の奮闘ぶりを語り、
また残された妻子の事に、ふれると、会場から、嗚咽と、
すすり泣きの声がしてきたのである。
残された若い奥さんと小学校に通う、お姉ちゃんと、弟の二人の
子供さんの姿が参列者の涙を、より一層、誘うのだった。
北島は、もう泣かずには、おれず周囲の目も気にせずに、
大声で泣いた。
この仕事を始めて、こんな気になった事は、今までにない経験。
この出来事、以降、医局全体の、北島と弊社に対する反応は、
非常によくなりライバルメーカーの担当者を交代させる程、実績が伸びた。
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