第三十三話:馬が合う先生の壮絶死1
多くの人がいると必ず、馬のあう人と、あわない人がいるのが常である。
北島にとって馬のあう先生は、松下医局長であった。
彼は、強面だが、その言動とは違い、非常にやさしい心の
持ち主であった。
北島が暗い顔をしていると、どうした元気ないじゃないか、
また、会社で、叱られたのか、彼女にふられたのかと
声をかけてくれたのである。
たまには旨いものでも食べに行こうと、病院内の最高のレストランに、
連れて行ってくれ、生まれて初めての、旨いオニオングラタンスープを、
ごちそうしてくれた。
帰り時に、金を払おうとすると、接待をしてくれと、頼んでないし、
お前はまだ若いし,給料も少ないから俺が出すと、
全部おごってくれたのであった。
お前が出世して偉くなったら、おごってもらうかもね
といったのであった。
この医局長にはピンチの時にも、お前ライバルが頑張っていて負けそう
だぞと笑いながら重要情報を手短に教えてくれたりもしたのであった。
ただ、その数年後に、この松下医局長と悲しい別れが来るとは
夢にも思わない北島であった。
ある年、この医局が全国○○学会の幹事大学になった時の事である。
幹事大学であるMS大学では、松下医局長が幹事となって、実務全般を
取り仕切るのが、通例になっている。
松下医局長の顔色がわるくなって、入院する事になったのは、
その翌月の事であった。
体調が悪く、動くと、すぐ疲れてしまうのであった。
そこで医局のある階の特別病室に専用電話とつなぎ、学会の幹事として
の役目を果たす事となった。
お見舞い行こうにも面会謝絶で行けなかった。
それでも人目を盗んで会いに行った時は笑いながら、お客さん、ここは
面会謝絶でっせ、こられたらあきまへんと精一杯、笑って言ったのである。
それを聞くと悲しく胸がつまる思いがして、こみ上げる涙を、
こらえるの必死な程、であった。
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